三浦研究室の研究テーマ

アイステーシスとしての感性科学




















 

 アイステーシスとは、感覚から感情まで、日常世界から芸術まで、生理学から文化まで、あらゆる「知覚」を意味する古代ギリシャ語です。
 三浦研究室では、実証科学の手法を用い、知覚(たとえば、見ること、触れること)と感性(感じること、表現すること)を共に考える視点で研究を行っています。

 たとえば、以下のようなテーマもその例です。


1. 絵画・写真の時間印象・時間知覚

 絵画や写真の中に、多様な「時間印象」や「速度感」を感じることができます。どのような時間を、何によって感じるのかは、私たちが時間をどのようなものとして捉え、あるいは、何を手がかりに時間の存在に気づいているかを考える手がかりを与えます。三浦研では、特定の時間印象や速度感を感じさせる視覚要因(空間周波数、モーションブラー、アクションライン、余白、色彩)を調べ、また、時間の捉え方についても考えています。

 一方、多様な感性印象、たとえば、美しさや好き嫌い、静けさなどが、いつ意識に上るのかという印象の「時間相」や、印象によって変わる「時間知覚」についても調べています。

3. 写真空間の知覚と印象・リアリティの基盤

 実際の風景を写したのに模型を写したように見える写真があります。なぜ、ミニチュアに見えるのかは、私たちが日常、どのような要因によって距離や大きさを判断しているのかに関係します。「恒常性」の視点を含め、ミニチュア効果の要因について検討しています。
また、この現象は、私たちが何を「本物」として判断するのか、その判断は何に基づいて行うのか、というリアリティ判断の問題とも関係します。さらに、ヴァーチャルな時代という、社会文化的視点からも考察できます。多様なレベルで現象を考えることは、アイステーシス研究の基本姿勢です。
 写真は広がりのある空間を画枠で切りとる表現方法です。境界拡張という記憶の変容についても検討しています。

2. 運動表象の知覚・記憶

 実際に空間を移動する物体が急には止まることが出来ないように、心(イメージ)の中でも運動する物体は急に止まることが出来ません。Representational momentumと呼ばれるこの現象はアニメ表現とも関係しますが、素朴物理学という「感性知」とも関係します。三浦研では、感性を知性と対立させて考えるのではなく、感性を、「知の枠組み」の観点から捉えています。

4. 「よい」とは何か?
 ランダムに配置されたドットに対しても、美しさることがあります。その背後にどのような視覚的法則があるのでしょう?個人差は何に由来するのでしょう?
 また、京都龍安寺の枯山水庭園は、庭石の配置がフラクタル構造を持っているので美しいと言われます。しかし、鑑賞者の視点や時間の経緯、身体の動きなどを考慮に入れたとき、「よさ」はどのように変わるのでしょう?フラクタルやランダムネスといった視点から、私たちが感じるよさについて、芸術作品や街並みも含めて考えています。

 一方、不快感を与えるパターンもあります。鳥肌や枯れた蓮のドットパターンに不快感を感じる人は多いと言われています。そうしたパターンにはどのような構造が隠されているのか、現代作家、草間彌生の水玉模様を使って、空間特徴と印象との関係を考えます。

5. 感性表現としてのオノマトペ
 「シュッ」は「ス-」より速い印象を与えます。擬音語は速度感を伝達することができるのです。一方、「ニョロニョロ」と「ユラユラ」ではどうでしょうか?速度の違いというより、運動物体の様態や軌跡の違いを的確に示しているように思われます。当研究室では、オノマトペという感性語を通して、速度感や質感を考えるとともに、視覚表現と言語表現の相違や相互作用についても検討しています。両者の隔たりが大きいと「違和感」が生まれます。そのとき、脳はどちらの情報を利用するでしょうか?

6. 素材感・質感:視覚と触覚のインタラクション
 また、物の表面を見ただけで、「ざらざら-つるつる」などの質感を感じることができます。これを三浦研では「視覚的触覚感」とよび、実際に触ったとき、見て触ったときの違いについて調べています。また、どのようなメディアで提示したときに、どのような質感が伝わるのかも、検討しています。

7. 絵画の中の視線:共同注視の文化的特徴
 視線は人の注意を強く引き、感情を喚起し、意味を生じます。本研究室では浮世絵などの絵画を用いて、視線の与える印象や解釈、文化的特徴や判断する人の社会的役割についても考えています。また、キューイングと呼ばれる認知実験を通して、視線認知の基礎についても調べています。

8. さまざまな幾何学的錯視
 格子の中央に円盤を置くと、円盤の中心部が点滅して見えます。オプティカル・アートのように美しいこの錯視の原因や特徴を調べています。
 縦縞の服は細く、横縞の服は太く見せると言われています。しかし、紙の上に描いた縦縞は幅広く、横縞は細長く見えます。矛盾する現象を実際に測定するとともに、どうすれば統一した説明が可能なのかを考察しました。

9. Embodiment (身体化)
 ンボディメントとは、抽象的な概念が具体化(to be embodied)されることで、身体との関わりで比喩的に表現される場合をしばしば言います。たとえば、「天に昇るここち」「名声も地に落ちた」「前向きに考える」など、言語や文化を問わずに使われる表現もあれば、宗教(eg.神の右手)や政治(eg.左大臣)など、文化や社会の影響を受けたものもあります。空間的な比喩と感情や認知判断の関係を実証的に調べています。

プロジェクト
           ProjectProject___Miura_Laboratory.html